コーヒー発祥の地エチオピアの、伝統的なコーヒーセレモニーでは焙煎始めに生豆を水で研ぎ、湿ったたまま焙煎をする。
福岡の名店「珈琲美美」の森光氏はエチオピアを訪れた際、そのやり方に興味を持ち、生豆を40℃のお湯で洗う方法に辿り着いたという。
一方で水洗いは無意味だ、味が落ちる、という意見もあり、生豆を洗うか否かという話題が、時折論争の的となる。
「洗わないと土汚れや農薬がついていて危険だ」と不安を煽る言説があるが、それはフードファディズムに類する誤った情報の流布では?と首をかしげてしまう。
コーヒー豆は高温で加熱する為、細菌による健康リスクはなく、土汚れや農薬についても、コーヒー豆が、果肉と硬い殻を除去して取り出される精選のプロセスを理解した上で考える必要がある。
品質が高いコーヒー豆は、収穫、精選から袋詰め、輸送まで品質管理が徹底されていて、水洗いをする意味はないように思える。
しかし、生産地によっては設備が不十分であったり、保管や輸送中の管理も万全とはいえず、不安を感じる面があるのも事実。
そのような違いも、生豆を洗うべきか否かの議論がややこしくなる要因だろう。
前置きが長くなりましたが、当店では一部の豆を除き、生豆を水洗いしています。
理由は単純に、品質をより高め、より美味しくするためで、試行錯誤した上で洗ったほうが良いと判断したからです。
作業は、水洗い、乾燥、選別を再度行うので、勝手に『再精選』と謳っています。ここまでやっているコーヒー屋は少ないと思うので、知ってもらいたいと思い記録しました。
今回使うのはコロンビアのスプレモ3キロです。
コロンビアのコモディティは粒の大きさでスプレモ、エキセルソなどと格付けされます。つまり、必ずしも品質や味を反映したものではないので、ロットによって結構なばらつきがあります。今回使用するスプレモは見るからに良い豆です。
水に浸すと浮く豆(フローター)が出てくるので取り除きます。水洗式の精選工程で浮く豆は除去されるはずですが、設備の整っているコロンビアでもこのように浮く豆がたくさん含まれる場合があります。
浮く豆は焙煎すると酸味や風味に乏しく雑味の原因となります。同じ水洗式のタンザニアやホンジュラスやメキシコはもっと多く含まれることが多いです。
コロンビアを洗う作業は、さっと軽く撹拌する程度で、過剰には洗いません。それでも水がにごります。
良くも悪くもこのにごりの成分が風味に影響を与えていそうです。カップの質感における柔らかさが減るとともにクリア感が増す印象です。
水を変え、1、2度軽くすすいだら水洗いは終了です。
次に生豆をネットに入れて、コーヒー豆専用で使っている乾燥機械で乾燥させます。
乾燥は撹拌させながら、低温の温風でおよそ30-50分行います。
乾燥時の撹拌により、豆が研磨されてチャフ(薄皮)がほとんど除去されます。
濡れたままの生豆でも焙煎は可能ですが、焙煎の進行が早くなり、いつもと同じプロファイルをなぞってもエグ味が出やすくなります。
水は空気よりも熱伝導率が20倍も高いため、豆の内と外でムラが起きやすくなり、同じように焙煎ができないのではないかと推測しています。安定した焙煎をするためには、豆の外側と内側の水分量を同程度にし、できるだけ元の状態に戻すのが理想的、つまり乾燥工程は必須だと考えています。
乾燥が終わると、焙煎前に欠点豆の除去、いわゆるハンドピックを行います。今回は1キロ分の準備をします。
未成熟豆、虫食い豆、カビ豆、黒豆、発酵豆など、味に影響が出る豆を、かき分けながら取り除いていきます。
1キロ分をチェックしてこれだけの豆を除きました。
たったこれだけですが、抽出時に1粒が入るだけで、明らかな違いが感じられます。
粉にして混ぜてしまえば判らないでしょうが、豆から挽いて淹れる場合にはそうもいきません。
生豆の準備は以上です。
焙煎後にも色づきの悪い豆、焙煎が進みすぎている豆などを取り除きます。
ご覧いただいた通り、難しいことは何もやっていません。ただ面倒なだけです。
入荷した豆をそのまま焙煎しても、十分に美味しい焙煎豆を作れます。
ただ、再精選をすることで、より美味しくなると知ってしまった以上は、やらないことは妥協であり不誠実です。
商売としては正しいのか悩ましいところですが、店主が良いと思うコーヒーを追求する事が小規模ロースターに求められる個性であり、存在意義ではないでしょうか。
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